人手不足の背景
事業活動において、今日の人手不足は深刻な問題のひとつとなっています。少子高齢化の影響や人口減少により労働市場では若年層の労働力が不足し、多くの企業が採用活動に苦戦しています。特に中小企業では、資金や知名度の面で大企業に劣るため、優秀な人材を確保することが難しくなっています。
産業構造の変化も人手不足を加速させています。IT技術やAIの進展に伴い、専門的なスキルを持つ人材への需要が高まっている一方で、従来型の労働力が求められる職種では採用が滞っているケースが見られます。このような状況下で、企業は限られたリソースを最大限に活用しなければならず、人手不足が業務の効率化や売上に大きな影響を及ぼしています。
また、働き方改革の推進によって労働時間の短縮や有給取得の促進が求められるようになりました。これにより、従来の働き方ではカバーしきれない業務が発生し、慢性的な人手不足に拍車をかける結果となっています。
経営者としては、限られた人材で最大限の成果を出すために、業務効率化や内部人材の育成、外部人材の活用といった課題に迫られています。
雇用と委託
働き方が多様化している今日では、正社員やパートタイマー等のほか、フリーランスという働き方も選択肢のひとつとなっています。企業からみれば、雇用のほかに業務委託という形態で人材を確保するということになります。
人材を確保する際は、雇用と委託それぞれの違いを理解し、状況に応じて適切に活用することが重要です。
雇用とは、企業が従業員と雇用契約を結び、指揮命令のもとで労働を提供してもらう形態です。企業は従業員に対して給与の支払い、社会保険の加入などの義務を負います。雇用関係にある従業員は企業の指揮命令下で業務を遂行し、長期的な視点で育成やキャリア形成が行われます。
一方、業務委託は委任契約や請負契約を通じて、特定の業務を外部の個人や企業に依頼する形態です。委託先は独立した立場で業務を遂行し、企業は委託業務に対して報酬を支払います。委任契約や請負契約では指揮命令権が存在しないため、業務の進め方や時間の使い方は委託先の裁量に委ねられます。
企業が雇用と業務委託を使い分ける際には、業務の性質や目的を明確にすることが重要です。たとえば、長期的な業務や企業独自のノウハウが必要な業務には雇用が適しており、短期的・専門的な業務には業務委託が効果的です。また、雇用と業務委託を適切に組み合わせることで、企業は柔軟な人材確保とコスト削減を実現できます。
外部人材を活用するメリットとデメリット
業務委託による外部人材の活用は、現代の企業にとって柔軟な人材確保の手段として注目されています。企業が抱える人手不足や専門スキル不足の課題に対して、即効性のある解決策を提供する一方で、デメリットや課題も存在します。
メリット
専門性が高い人材の確保
外部人材は特定のスキルや専門知識を持っていることが多く、短期間で成果を出すことが期待できます。例えば、ITシステムの導入やマーケティング戦略の立案など、専門性が求められる業務を任せることで、効率的な業務遂行が可能です。
コストの削減
外部人材を活用することで、雇用に伴う社会保険料や福利厚生費といった固定費を抑えることができます。業務委託では必要な時に必要な分だけ業務を依頼できるため、柔軟なコスト管理が可能です。
即戦力としての活用
外部人材は特定の分野での実績や経験が豊富なため、研修や教育にかける時間を大幅に削減し、すぐに業務に取り組んでもらえます。
業務の効率化と生産性向上
外部人材に専門業務を任せることで、社内の従業員はコア業務に専念できるようになります。これにより、全体の業務効率化と生産性向上が期待できます。
新しい視点やノウハウの導入
外部人材は企業外の経験やノウハウを持ち込むため、業務改善や新しい視点での提案が期待できます。組織内部では気づけなかった課題や解決策が浮かび上がることもあります。
デメリット
組織文化や内部人材との調和が困難
外部人材は一時的な契約で関わるため、企業文化や社内の価値観に馴染みにくい場合があります。正社員と比べて組織への帰属意識が薄く、社内のメンバーとのコミュニケーション不足や連携の不一致が生じることがあります。その結果、業務の進行に支障が出たり、社内の雰囲気に影響を与える可能性もあります。
情報漏洩やセキュリティリスク
外部人材は業務遂行のために社内の機密情報やデータに触れることが多く、情報漏洩リスクが伴います。特に、競合他社への転職や複数企業との契約を行っている外部人材の場合、情報管理の徹底が求められます。
ノウハウの社内蓄積が困難
外部人材が業務を完了して契約が終了すると、そのノウハウや専門スキルが社内に残りにくい問題があります。長期的な視点で考えると、外部人材への依存度が高まることで、企業内に技術や知識が蓄積されず、持続的な成長が阻害される可能性があります。
業務のコントロールが困難
外部人材は企業の指揮命令下ではなく、独立した立場で業務を遂行します。そのため、業務の進捗管理や成果物の質に対するコントロールが難しくなることがあります。指示系統が不明確になると、企業側の意図と異なる成果物が納品されるリスクも考えられます。
法的リスク
外部人材を活用する際、請負契約や委任契約が適切に結ばれていないと、後に「実質的には雇用関係にあたる」と判断される可能性があります。この場合、未払い賃金や社会保険料の支払いを求められることがあり、企業にとって法的リスクが発生します。
長期的な人材育成が困難
外部人材はあくまで短期的なプロジェクトや業務に特化して活用されることが多いため、組織としての人材育成にはつながりません。企業としては、外部人材に頼りすぎず、社内の人材育成に取り組むことも必要です。
外部人材における課題
外部人材活用には多くのメリットがありますが、同時に課題も存在します。企業が外部人材を最大限に活用するためには、以下の対策が必要です。
コミュニケーション不足の解消
外部人材は社内の文化や業務フローを十分に理解していないことが多いため、定期的なミーティングや情報共有を行うことでコミュニケーション不足を防ぎます。
情報漏洩のリスク管理
機密情報を取り扱う場合は、秘密保持契約を締結し情報管理体制を強化することが必要です。
契約内容の明確化
業務範囲や成果物、報酬に関する内容を契約書で明確に定義することで、トラブルを未然に防ぎます。
社内外の役割分担の明確化
外部人材に任せる業務と社内の従業員が担当する業務を明確にし、役割分担を適切に行うことが重要です。
これらの課題を解決するためには、外部人材の活用計画を明確にし、契約内容やコミュニケーション方法を事前にしっかりと設計することが求められます。
活用事例
専門知識を持つフリーランスの活用
IT企業A社では、最新技術を取り入れるためにフリーランスのエンジニアをプロジェクトごとに採用しています。正社員としての雇用よりも柔軟であり、短期間で専門スキルを活用することが可能です。
コンサルタントによる業務改善
製造業B社は生産工程の効率化を図るため、外部の業務改善コンサルタントに委託しました。第三者の視点で課題を分析し、解決策を提案することで生産性向上を実現しました。
マーケティング戦略の外部委託
小売業C社では、SNSマーケティングを強化するために外部のマーケティング専門チームに業務を委託。専門知識と経験を活用して顧客獲得に成功しました。
外部人材活用のステップ
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step1目的と業務範囲の明確化
どの業務を外部人材に依頼するのかを明確にし、期待する成果を設定します。
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step2適切な人材の選定
必要なスキルや経験を基に、外部人材を選定します。
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step3契約内容の調整
報酬、納期、成果物の基準を明確にし、契約書を交わします。
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step4業務の進捗管理
定期的なミーティングや報告を通じて進捗を確認します。
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step5評価とフィードバック
成果を評価し、次回の改善点や新たな協力関係を検討します。
外部人材の探し方
クラウドソーシングサービス
ランサーズ、クラウドワークスなどのプラットフォームを活用する
専門エージェント・仲介会社
外部人材のマッチングを専門とするエージェント等に依頼する。
SNS・知人・ネットワーク
SNS等から直接人材を見つける。
法的留意点
外部人材の活用における留意点のひとつに、フリーランス新法の存在があります。特に、法第3条(書面等による取引条件の明示)はフリーランス(特定受託事業者)へ業務委託を行うすべての事業者に適用されるため、注意が必要です。
書面等により明示すべき事項
- 業務委託事業者とフリーランスの名称
- 業務委託をした日
- フリーランスの給付の内容
- 給付を受領又は役務の提供を受ける期日
- 給付を受領又は役務の提供を受ける場所
- (給付の内容について検査する場合) 検査を完了する期日
- 報酬の額と支払期日
- (現金以外の方法で報酬を支払う場合)支払方法に関すること
最後に
人手不足時代において外部人材を効果的に活用することは、事業の成長につながる有効なオプションのひとつと言えます。
ただ、即戦力の確保やコスト削減、柔軟な働き方の実現といった多くのメリットを提供する一方で、チームとの調和、セキュリティリスク、コスト増加などのデメリットも存在します。
企業が外部人材を効果的に活用するためには、リスクを十分に理解し、適切な契約と管理体制を構築することが重要です。